そしてもう一度夢見るだろう
松任谷由実の歌を聴いたことのない日本人は果たしているのだろうか?おそらく、たいていの日本人はユーミンのあの独特の声を知っている。もはや国民的歌手と言えるだろう。そんなユーミンではあるけれど、一般的に、「ユーミンと聴いて思い浮かべるのは”卒業写真”とか”やさしさに包まれたな”など初期の曲ばかり」という人も実は多いはず。そのあたりの曲が飛び抜けて知名度が高いということもあるけれど、印象に残っているのが初期の曲ばかり、というのもなんだかもったいない。
ユーミンの35枚目のアルバム
そんな方に今日ご紹介するのはこのアルバム。なんと35枚目のオリジナル・アルバムである「そしてもう一度夢みるだろう」だ。まず驚くべきポイントは”35枚目”というところ!正直私もこの数字を見た時にはびっくりしてしまった。
「こんなに出してるのか!」
申し訳ないけれど、これがファースト・インプレッションだったのはまぎれもない事実(笑)私自身もユーミンの”最近の”曲をあまり知らなかったので、「お試しだ、」と思って軽い気持ちで手にしてみた、というところが本当の本音。
しかし、軽い気持ちで手にしたことが後で満足感を生むことになった!
収録曲
収録されているのは以下の曲。全部で43分強という若干スマートなアルバム。それぞれに私の感想を書いてみる。参考までにご覧頂きたい。
1.ピカデリー・サーカス
雷雨の情景を提示し、アルバムの世界へと連れ込んでくれる最初の一曲。楽器がだんだんと増えてバンド・サウンドが出来上がっていくのがとても心地よい。ドラムが入ってから間奏のアコギソロへの疾走感は個人的にはたまらなく好き。そのバックでなっているエレキギターもハードロックの流れを組んでおりかなり好み。歌詞にはいきなり「もう一度夢見るだろう」とアルバム・タイトルが組み込まれており、その言葉とともにそのまま次の曲へと雪崩れ込む。アルバムのイメージ、空気感を伝える一曲目として素晴らしい役割を果たしている。「今も探してる あの頃を 戻らないけど 失くさない 憧れの街」という歌詞からは、この曲は未来から過去を振り返る曲であるとも取れる。なるほど、次の曲は青春を描く爽やかな曲だ。
2.まずはどこへ行こう
この曲に関しては、私は「ドラム」に尽きると思う。一曲目で降り続いていた雨があがったかのように、非常に心地よいドラムのフィルで始まり、一曲を通してハーフタイムシャッフルのグルーブがとても印象的で、思わず体が動いてしまう。随所に秀逸なフィルが散りばめられており、私はもはや「ドラムしか聞こえない」状態になってしまった。笑それだけドラムがオイシイ曲。ちなみにこの曲を含めこのアルバムの曲の大半のドラムを叩いているのはVinnie Colaiutaというドラマー。私はこの曲でビビッときて思わずGoogle検索までして突き止めたのだけれど、ジェフベックのバックで叩くほどの実力者。いろいろなアーティストの楽曲に参加しているので、この曲のドラムが気に入った方はぜひチェックしてみてほしい。しかし、上モノも負けてはいない。ギターとストリングスがユニゾンするリフも特徴的で、耳に残る。川沿いの道を二人乗りの自転車が駆け抜けいく光景が目に浮かぶ、とてもキャッチーでさわやかな曲だ。
3.ハートの落書き
エイトビートで、いかにもユーミンらしい、歌詞を聴かせる曲だ。ある程度年齢を重ね、大人になった主人公が遠い昔、夢を抱いていたころを思い返すような、ちょっと甘酸っぱい青春系の曲。「今もそれぞれの 夢の途中」ここにもこのアルバムのキーワードが何度も繰り返されている。キラキラして、儚い学生時代の恋愛が描かれている。ギタープレイは荒井由実時代を思わせる、さりげないオブリガードが主体だ。いかにも、ユーミン!鉄板的な良曲!
4.Flying Messenger
明るい曲調から一転、クールな疾走感が貫く、内面を映し出す曲。この曲のオイシイポイントは、打ち込みドラムの上を自由に動き回るベース・ラインであろう!
5.黄色いロールスロイス
このアルバムの中では異質な印象を受けた。この曲は加藤和彦とのコラボ曲。愚直なロックンロールに徹しているイメージ。
6.Bueno Adios
これも中盤の曲で、ダークな印象の曲。単語をちりばめていく散文チックな歌詞で、別れを経て、揺れ動き、ささくれた心を描写しているように思える。ストリングスの編曲がとても素敵な一曲。
7.Judas Kiss
アタックの強いシンセがとても印象的な曲。そしてこの曲では、再びVinnie Colaiutaの軽快なドラミングが聞ける。アルバムの中盤で失恋を経て、この曲からラストに向けて再び起き上がっていく、、、かと思えば、このJudas kissは訳すと「うわべだけの好意」という意味。”今でも狂おしいJudas Kiss”と歌いながらまた砂漠をさまよい続けることになるみたい。正直なところ、歌詞は置いておいて、Vinnie Colaiutaのドラムが再び現れてとてもテンションが上がる曲だ笑
8.Dangerous tonight
さてさて、この曲で主人公、前曲で怪しい動きが見られたと思ったら、アブナイ恋に身を投じることに。アコースティック・ギターのベタなストロークが好き。この曲に限ったことではないけれど、間奏のギター・プレイがかなりツボで、全然難しいことしてないのだけれど、なぜか心に残る。”kill me softly, baby 感じさせて 意味深なWORDで”なかなか挑戦的。
9.夜空でつながっている
そろそろ終盤曲。ちょっとスローで、悟った大人な感じな曲だ。”それなのになぜ去っていったの”のコード進行が歌詞とリンクしていて秀逸。誰かを亡くしたのだろうか、、次の曲との関連がきになる穏やかなバラード。
10.人魚姫の夢(Album Version)
前曲からの流れで、壮大な空気感のシンセから始まる曲。アルバム一曲目の雷雨から始まり、数々の試練、悲しみ、痛み、孤独を経て、浮き沈みしながら進んできた主人公はここで、「哀しい夢だった」と言う。これはどこか、上手くいかないこと、自分が認められない事実があって、それを「これは夢なんだ」「夢だったんだ」、と思い込むことで現実を否定しているようにも思える。例えば、大事な人を亡くした現実から逃れたいのかもしれない、と感じた。そのどうしようもない感情を抱えたまま、サビのメロディを「哀しい夢だったと…」とリフレインし、アルバムは締めくくられている。
ストーリー性のある名盤
アルバムを通して音作りに個性があり、そしてストーリー性がある。今の時代、気に入った曲だけ、一曲ずつ購入することが簡単にできるようになってしまったけれど、こうしてアルバムを通して聴くことでしか感じられないこともたくさんあると思う。
さわやかな曲があり、落ち込んだ曲があり、人生観を語る曲があり、そして迷いを拭いきれないままに終わる。
ハッピーエンドではないけれど、それこそが人間らしくて、いいのではないだろうか。楽しいところだけピックアップしてみても、それは果たして意味のあることだろうか。「紆余曲折を経て、どうにもなりませんでした。」という物語でも、その紆余曲折に必死に食らいついていくことが大事であり、ドラマに成りうるのではないか、とちょっと感慨に浸ってしまった。
とりあえず聞いてみてほしい!
はい、駄文に付き合って頂いた皆さん、ありがとうございました。評論っぽくやってみたのだけど、思った以上に苦戦してしまった。もう、語彙力が足りない!笑 ごにょごにょと私が書くよりは、聴いてもらったほうが早いこと間違いなし!
そして聴く際には、40分強の時間を確保し、アルバムを通して聴くことをおすすめしたい。今後、こうした音楽評論的なことも、ちょこちょこやっていこうかな。それでは。
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